1月19日、week4、4日目。この日も快晴で、海のコンディションも悪く無い。6時に出航して、昨日泳げた海域に向かう。しかし、この日はまったく鳥山が見当たらない。多少のグンカンドリたちが空で旋回しているのが見えるだけだ。
しばらくは、その海域をゆっくりと移動していた。ムヘーレス島やカンクンから、徐々にフィッシングボートが姿を見せ始めた。昨日のドイツ人カップルの船も出ていて、時折キャプテン同士が無線で連絡を取り合っていた。
何も兆候が見られないので、他のフィッシングボートが集まっている海域へと移動。少なくとも魚群探知機に、イワシとバショウカジキの姿が写っているから、船が集まっている。
8時過ぎ頃、ちょっと離れた場所にいる船の側に、鳥山が立った。僕はまだ気づいていないロヘリオたちに、「ロヘリオ!あれ」と小声で指差したロヘリオは、ニヤっと笑って船の速度を上げて、そちらへ急行した。
フィッシングボートは3隻程集まっていた。入れてもらえるかどうかを確認しなければいけない。それに、その間にイワシの群れが食い尽くされたり、海底に逃げのびてしまわないようにしなければいけない。
他に鳥山は見つからない。今はこれしかチャンスが無い。3隻の船とも、早々にバショウカジキをヒットさせて、群れを譲ってくれた。ロヘリオはもう一隻のドイツ人夫婦の乗船する船にも無線連絡を入れていた。
天気も良かったので、僕はこの日、ウエットスーツは着ないで、サーフパンツとラッシュガード、それにフードベストだけで泳ぐことにした。止まれば寒いかもしれないけど、それまでの移動では、5ミリのウエットでは毎回泳ぐのがきつ過ぎたからだ。
フィッシングボートはまだ周囲に何隻かいた。群れの移動速度も早い。ロヘリオが「早く泳げる3人だけまず入れ!」と直前に叫んだ。僕も同じように、「早く泳げる2人が僕と一緒にまず入ります!用意して!」と叫んだ。
昨日の様子から、すでに誰が早く泳げるのかは、お互いに確認済みだったのだろう。YさんとNさんが僕と一緒にエントリーした。案の定、イワシの群れは大きく、移動速度も昨日より全然早い。僕でも到底追いつけない。
ドイツ人カップルの乗る船も加わり、交互に前に回り込んでエントリーを繰り返すことに。
途中から、イワシの群れが徐々に小さくなって行き、自分なら追いつける速度になってきた。僕はもう船に戻ることをしないで、追跡を続けた。その間に、何度か、2隻の船が前に回り込んでは、皆を海に落としてを繰り返した。
それは良かったのだけど、突然カンクンからの観光客相手の2時間程のフィッシングチャーターの船が、僕が泳いでいるのに、その群れのバショウカジキを釣るために、目の前に入ってきた。確認すると、すでに1匹のバショウカジキに釣り糸がかかっていた。
僕は、一度追跡を止めて、船に戻るもとにした。ただ、不安だったのは、イワシの群れがすでに相当小さくなっていたことだ。もし、止まる前に食い尽くされてしまったら、ゆっくり見ることができない。
船に戻ると、ロヘリオにそのことを告げて、急いで群れの前に回り込み、エントリーさせてもらった。まだ移動をやめてはいなかったけど、イワシの群れの数はかなり少なくなった。もう止まっても良いくらいだ。バショウカジキたちの様子を見ていると、捕食の勢いが激しくなってきた。
僕は食い尽くされるのを阻止するために、その激しい群れの中に突っ込んで、イワシの群れに身体を寄せて泳いだ。激しかったバショウカジキの捕食が緩んだと同時に、20匹程度になったイワシたちが、僕の下にいることを選択して、動かなくなった。
もうこの状態になれば、大丈夫。同じ場所にただ浮いているだけでも見れる。
しばらくして、僕の方のゲスト、それにドイツ人カップルも集まってきた。心配だったのは、人数が多過ぎて、バショウカジキが泳ぎ去ってしまわないかということだった。
水面は、8人のスキンダイバーでごったがえした。小さなバイトボールに対して、やはりこの人数は多過ぎる。1月後半から2月になると、チャーターが増えて、当然こういう状況が多くなる。カンクンからのスイムボートも加わると、とんでも無いことになるに違いない。
それでも、バショウカジキの群れが大きかったので、1時間程は泳ぎ去ることなく、その場に居続けた。ラッシュとフードベスト、サーフパンツだけでは、そろそろ寒くなってきた頃、突然ほとんどのバショウカジキが、何かを発見したように泳ぎ去った。
残ったバショウカジキは5匹程度。包囲網を解かれた10匹ほどのイワシたちが、フラフラと海底に逃げ延びようと移動を始めたところに、その5匹のバショウカジキたちが襲いかかった。深くて良く確認はできなかったが、おそらくほとんどが食い尽くされてしまったのではないだろうか。無情だ。
この日は、移動していたときに泳いだ時間も合わせて、2時間以上泳ぐことができた。ゲストの皆も、何度説明しても、ピンと来ていなかった、「止まって見れる」の意味を実感できて喜んでいた。
その後、この日はまったく鳥山が立たず、2時過ぎまで北へ移動したりしながら、探すが、諦めて帰島した。