家の目の前に広がるのは、谷津干潟。東京湾で唯一のラムサール条約登録湿地だ。

朝早くゴミ出しに行くときには、海友はいつも手伝いたくてしょうがない。しかし、ちょっと前まで戦力としては、ほぼレベル０に近いレベル１くらいで、少しでも重たいものを持たせると、途中で投げ出して「ぱぱ～、もって～」と要求してきていた。こちらとしては戦力外通知を出したいところなのだが、手伝いをしたいという奴の思いをムゲにするのもと思うので、もっぱら見た目は大きくても軽い、ペットボトル類を持たせてやることにしていた。

しかし、今日はわざとちょっと重たい燃えるゴミを渡してみた。それには訳がある。家の前に広がる干潟を二人で1周してみたくなったのだ。周囲約3.5km、3歳になったばかりの子供にとってはちょっと長い。飽きずに歩き続けるだけの根性があるとは思えなかった。だから、重たいゴミを諦めずに最後まで持って行けたらチャレンジしてみようと思ったのだ。僕は、ゴミの他に、野鳥も撮影できるキヤノンEOS 1Dマーク２に100~400ｍｍレンズを装着して肩からかけていた。

海友は、燃えるゴミを引きづり、引きづり、それでも途中で投げ出すことなく出すことができた。（よし！行ってみるか）僕は海友に向かって「どうする、とりさん見に行ってみる？」と聞くと、「うん！いく」と返事が返ってきた。

手をつないで歩いたり、ときには海友を肩車しながら野鳥を撮影したり、ジョギングをする人が横を通過すると、海友は「きゃはは！」と歓声を上げながらしばらくついていったり、立ち止まって魚やカニをみたり、木の実を取ったり、そんなことをしながら歩き続けた。色々な物に興味を持って「これ、なに？なに？」と何度も聞いてきた。途中、エイを3匹も見かけたのには驚いた。僕も興奮して「ほら、エイだよエイ！すごいね～こんなところに！」と海友に伝えたが、本人は「どこ？どこ？」といい続けていたので、見えていたのかどうかはわからなかった。

3分の１くらい歩いたところで、一度「おうちにかえる」と言い出し、来た方向に向かって歩き出そうとした。「こっちからいってもおうち帰れるよ」と説得するが、納得がいかないらしい。しょうがない、ちょっと卑怯な方法だとは思ったが、「こっちから行ったら、おうち帰ってから、アイス食べていいよ、でもこっち戻ったら、アイスは食べちゃだめ」と言ってみた。「・・・・・」しばらく考えていた海友は、引き返すのを止めて、また歩き始め、それ以降、めげることなく歩き通した。

5歳になったら、父子二人だけで海外を放浪したい。それが僕の夢の中の一つでもある。もちろん、海友だけでなく、颯友が5歳になったときにもそうしたい。まあ、二人が望んでくれればの話だけど。僕が日本に長くいれる間に、二人だけで、あちこちに行こうと思うのはそういう理由があるからだ。

時計も携帯も持っていなかったので、1周するのにどれくらい時間がかかったかわかわなかったが、デジカメで撮影したデータを見る限り、最初に撮影したゴミ捨てのシーンから、最後の野鳥の撮影シーンまでで、約1時間20分だった。

「たのしかった？」と海友に尋ねると、「うん、まあまあ」という返事が返ってきた。まあ、いいよ。それでも歩き通してくれたから。最後の方で、小学生が描いた、「干潟にゴミを捨てないで」という絵のポスターを見つけた海友は、その絵を指差して、「とりさんがなみだながしてるね～」と言って悲しそうな顔をしてみせた。

家に帰ると、ママに向かって「ねえ、アイスは～？」。(こ、こいつ、覚えてやがった・・・）。「え？アイス？無いわよ今は」。「パパがたべていいっていったんだよ」。「・・・・」冷蔵庫に残っていると思っていたアイスは、ミナが全部食べてしまっていた。乳腺炎になりやすいから、アイスとか食べちゃだめだって言われてたのに。仕方ないので、クッキーで我慢してもらった。

夜、ニモの本を見ながら、「きょうこれいたよ」とニモの先生のエイを指差して、ミナに報告しているのを見て、嬉しくなった。

颯友は、今日も3年寝太郎のように、おっぱいの時以外は寝続けていた。