INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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Photographers Diary

岩手で、鮭の産卵撮影

2012.11.11 / Author.

ニューカレドニア&バヌアツでのロケを終了して、帰国。同日に車で岩手へと移動。
久しぶりに、岩手県の大船渡市へ出かけた。海外ロケが続き、なかなかガレキ撤去作業のボランティア活動に参加することができなかったのだけど、この時期だけは、随分前から岩手に来るためのスケジュールを組んでいた。
それは、ボランティアダイバーズたちが奇麗に清掃した河川に、鮭たちが遡上してくるシーズンでもあるからだ。
三陸ボランティアダイバーズの理事長のくまちゃんは、地元でダイビングショップRiasも経営している。元々花巻出身のくまちゃん、震災以前は、内陸の河川一カ所で許可をもらい一般のダイバーなどを中心に、「サーモンスイム」を開催していた。
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サーモンスイムとは、産卵のために遡上してくる鮭の様子を水中で観察するプログラムのことだ。スイムとは言っても、実際の川の水深は、せいぜい腰くらまでしかなく、浅い場所では、足首くらいまでの深さしかない。当然川底に這いつくばり、じっと動かないようにしながら、鮭を観察することになる。
今回取材を行なったocean+αで、サーモンスイムの方法を記載しているので、興味のある方は参考までに。
津波後の海中や河川でのガレキ撤去作業で、大船渡市の漁業関係者との信頼関係が深まった事から、今では、花巻市の内陸の河川以外に、大船渡市にある河口付近の河川4カ所でのサーモンスイムを行なう許可ももらうことができた。
「河川の数が増えたことで、その日のベストの川で観察、撮影をすることが容易になりました」とくまちゃん。
しかし、今年は、川の水量が少なく、その上水温がなかなか下がらなくて、シーズン前半は、「もしかしたら、あまり鮭が戻って来ないのでは」と懸念していたそうだ。
撮影日前日には、大雨が降った。そういう状況を理解していない僕は、雨が降って、河川が濁り、撮影が難しいのではないかと懸念しながら現地に向かった。しかしくまちゃんは、「雨が降ったおかげで、川の水量が、鮭の遡上に最適な環境になった感じです。鮭も多いし、今年一番のコンディションですよ!!」と大喜び。
今回鮭を撮影しに出かけた、川幅の狭い綾里川のそこかしこで、鮭たちが固まって泳いでいる姿が道の上からでも確認できた。メスが尾ヒレで卵を産むためのマウンドを掘り、そのメスを数匹のオスが奪い合う。そしてタイミングを見計らって、放精、放卵を行なうのだという。
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奇麗なマウンドが出来上がり、そろそろ臨戦態勢の鮭の集団に目星を付けて、静かに接近してアプローチする。水温は12度。ドライスーツにフードベストとグローブで身を固めているので、最初はさほど気にならない水温も、産卵待ちで這いつくばっている時間が徐々に経過していくに連れて、辛くなってくる。しかも、身体は流されないように、全部で、22キロのウエイトを身体全体に分散して装着していた。水深はおそらく30センチほどしかないだろう。
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そこに鮭に極力ストレスを与えないように、微動だにせずに何時間もうずくまっているのだ。上から仲間が様子を見ていなければ、間違いなく、死体状態で、すぐに警察に通報されそうだ。
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そんなに粘りながらも、結局産卵をしてくれない場合もある。自分もそれまでに、マウンドを掘るシーンや、オス同士の争うシーンなど様々な撮影をしていたために、カメラのバッテリーが点滅しはじめていた。
「頼むから、早く産卵してくれ」と心に願いながら、同じ体勢を続ける。2日目の事でもあったので、変な体勢をしていた首が痛くなり、おまけに、手からはドライスーツに浸水を始めていた。
産卵までの、ほとんどの雑感シーンは撮影していた。バッテリーを交換しようかどうしようか悩んでいたその次の瞬間、動きの激しくなった鮭たちが、急に大きく口を開け始めた。産卵の合図だ。
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「始まった!」自分は、無我夢中でシャッターを切り続けた。何度かファインダー越しに、放出された精子らしき白濁は確認できたのだけど、卵が生まれているかどうかまでは確認できなかった。ライブビュー撮影にしてみたところで、反射で構図もわからない。だから、ファインダーでせめて構図だけでもしっかり決めて撮影するしかない。おまけにバッテリーも残り僅かだし。
「どうか写っていてくれ!」そう願わずにはいられない。あとは運を天に任せて、口を開ける鮭のタイミングに合わせて、闇雲にシャッターを切り続けるだけだった。
結果、精子も卵も写っている写真を撮影することができた。
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「精子で白濁してる写真は見たことありますけど、卵までこんなにしっかり写っている写真は見たことないですよ」とくまちゃんも感心していた。
産卵を終えて、弱り切った鮭たちは、川底で力つきる。産卵は、生命のバトンタッチが行なわれる、感動的な瞬間でもあるわけだ。
このサーモンスイム、今年は12月頭くらいまで、続きそうだと予測している。
もし、この命をかけた感動的な産卵シーンに興味のある方は、ダイビングショップRiasの佐藤寛さん(くまちゃん)に問い合わせてみてはいかがでしょうか。

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