先週の木曜日頃から、体調を崩した。風邪で熱もあり、鼻水も出るし、咽喉も痛い。おまけに、堅いビンロウの実を噛みすぎたせいなのか、ダイビングすると、治療した歯に水圧がかかるような痛みを感じる。
ライズがヤップにオープンして2年半。僕はすでにオープン前のロケも含めて5回、ここに取材に来ている。目的はマンタの交尾と、そして、いつのころからか、2月に1回のペースで目撃されるホワイトマンタ。しかし、まだどちらの撮影も達成できていない。
動物運が悪い方では無いと自分で思っている。でもなぜだか、目的を持って潜るとなかなか見れないことがある。以前はタイのジンベエがそうだった。あまりに会えなくて、「タイにジンベエはいない」とか「ジンベエが見れたらもうタイには来ないよ」とさえ言っていた時期がある。
しかし、数年前に初めてタイでジンベエを見てからは、毎年連続で撮影に成功している。もちろん、結局タイにも毎年通い続けているのだけど。
今は、それがヤップのマンタの交尾であり、ホワイトマンタだ。実際のところ、今回の滞在でも、ほとんど毎ダイブマンタには遭遇している。マンタ狙いのダイビングでの遭遇率は90%以上。本当は満足すべきところなのだけど、目的をすでにワンランク上に設定してしまっているから、気分的には、毎ダイブ敗北感を味わってしまっているわけだ。
それが今週末には、さらに追い討ちをかけるような、決定的な敗北感を味わうことになってしまった。
体調が悪いまま、潜り続けた金曜日。なんとなく、明日は何か(交尾かホワイトマンタ)が見れそうな気分になっていた。理由はまったく無い。ただ、漠然と見れそうな気がしただけだ。体調が悪いせいなのかもしれない。でもこんな気分はヤップに来て初めてのことだった。「明日は何か見れそうな気がするんだよね。こんな気持ち、ヤップに来て初めてのことなんだけど」と大ちゃんやミナに伝える。
翌土曜日、そんな気持ちを抑えつつ、ミルチャネルへ。結果は、マンタは5匹いたけれど、交尾にはいたらず、ホワイトマンタにも遭遇できなかった。結局「何かありそう」というヤップでの初めての思いは、あえなく惨敗。意気消沈しながら、帰路に着いた。
日曜日、午前中、体調の悪さはピークに達していた。激しく咳き込み、身体がだるい。おまけに早朝から土砂降りの雨。8時半に出発する予定だったが、しばらく様子を見ることにした。昨日到着した新しいゲストの人たちを連れて、ガイドのユキちゃんは、予定通り8時半にミルチャネルに向かった。
大ちゃんと、レストランでぼ~っとしていた。体調も悪いし、今日はダイビングしないで、休息しようと思い始めていた矢先、激しかった雨はいつの間にか止み、太陽の日差しが差し始め、青空が広がってきた。そこへ、ユキちゃんからのメッセージメール。そこには「white manta」の文字。
「え~、まじかよ~」。すでに休みモードに入っていた僕たちは、そのメッセージを恨めしく思いながらも、準備を始め、ミルチャネルへと向かった。ポイントに着くとすぐにエントリー。透明度は悪い。「あまり動かないで、待とう」と大ちゃんは言っていたけど、結局のところかなり移動してマンタを探した。結果、5匹のマンタに遭遇したけど、どれも普通のマンタ。探しまくったせいで、大ちゃんはエア切れして浮上。
打ちひしがれながら、ボートに戻り、1時間の水面休息を取って、再び潜行。透明度はさっきよりさらに悪い。少しの距離でも離れ離れになるとほとんど確認できない。しかし、僕もすでにこのポイントは50回以上潜っているから、まったく見えなくてもだいたいの位置は把握している。そんなわけで二人は、なんとなく別々の方向に捜索に向かうことになった。それがいけなかった。
減圧を出し、もう浮上しなければいけないと思っていたとき、大ちゃんが濃霧のような海中の向こうで叫んでいるのが聞こえた。僕は彼が向かった方向にダッシュしていった。大ちゃんもこちらに向かって慌てて戻ってきながら、レギュレーター越しに「ホワイト!ホワイト!」と叫んでいる。
「まだいますように」と念じながら、デコが出ているにも関わらず深度を取り、一緒になって戻る。しかし、透明度の悪さもあり、結局再度見つけることはできなかった。
「くやしい・・・」こんな悔しい思いは久しぶりのことだった。きっと5年振りくらい。すでに5回目のヤップ。「何か見れそう」な予感は1日ずれ、体調の悪さと天気の悪さで、出航を見合わせ、ポイントに慣れていたことも裏目に出た。ホワイトマンタがいたのに、見れなかった。
安全停止をしながら、気持ちの整理をしようとするが、なかなか収まらなかった。本当はもう1本潜りたかったが、これ以上と透明度が悪くては、撮影は困難なくらいに悪くなっていた。
ボートに戻る。潜っている間は感じなかった悪寒が身体を包む。最悪だ。髪の毛をかきむしり、「あ~、ちくしょ~!」と叫んでいた。人前で、遠慮することもなく、感情をむき出しにするのは、本当に久しぶりのことだった。本当に悔しかった。