INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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Photographers Diary

2017 スリランカ・ホエールスイムweek1  クジラを取り囲む状況

2017.03.26 / Author.

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昨年は、5週間の滞在で1頭しか目撃することのなかったシロナガスクジラ。去年は、その1回のチャンスで水中での撮影ができたのはラッキーだった。
しかし、今年は、初日、2日目と、遭遇したクジラは全てシロナガスクジラ。自分が確認できただけでも、同じ海域に8頭。現地の人たちの情報では、12頭ほどのシロナガスクジラが、このトリンコマリーの海域で目撃されているとの事だった。
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去年は1頭だけだったから、今年はかなり高確率でシロナガスクジラの水中撮影ができるものと期待したが、実際にはそう簡単にはいかなかった。それは、ここでのクジラスイムの情報が、SNSなどで世界中に拡散され、多くの観光客が集中して、かつ、クジラたちへの配慮に欠けた強引なアプローチをする船が増えたからのようだ。
自分たちのアプローチは、シロナガスクジラが呼吸のために浮上してきたら、進行方向のかなり前に回り込んで、船から入水し、シロナガスクジラが通過するのを待つスタイルだった。だから、船が接近しても、それほど進行方向を変えないで、こちらが待っている方向へと向かってきてくれることが多かった。
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しかし、ここ数年、強引なアプローチ、浮上したばかりのクジラに突っ込んで行き、目の前でゲストを海に飛び込ませるというやり方をする船が増えてしまったために、船が向かってくると、クジラたちが嫌がってすぐに方向を変えて逃げてしまうようになった。
僕らのアプローチの仕方だと、前に回り込んで、入水して待っている間に、カットインして、前にゲストを落とす船もあったり、クジラを取り囲んで、まるでシャチのアタックのような状況になっていたり。
船の数を制限したり、アプローチの方法を取り決めたりしないと、クジラの生態にもかなりの悪影響を与え、海に入る人たちにも危険が及びそうな状況が年々エスカレートしてきているように感じる。
だからと言って、水中での遭遇を全面禁止にしてしまって、海中でシロナガスクジラやマッコウクジラに遭遇できるという、貴重な経験、を全くできない方向にしてしまうのは、とても残念なことだと思う。
最初にこのことを書いたのは、スリランカにクジラたちと泳ぎにくる機会がある人たちに、少しでもクジラのことも、考えて欲しいと思ったからでもある。近くで泳ぎたいし、撮影したい。それは、自分も同じだけど、クジラたちのリズムを大きく脅かしてしまうようなアプローチをすることは自分は望んでいない。もちろん、見る人が見れば、海に入ること自体、彼らのリズムを崩しているのではないかと言われるかもしれないが、自分は水中で、こうした野生の海洋生物たちと遭遇する経験は、何物にも変えがたい、貴重な体験だと思っている。その立場からの意見と考えてもらいたい。
ただ、より近く。より迫力のある写真を撮りたいという、その思いだけで、クジラたちが恐れるような、強引なアプローチをしていないかを考えながら海に出てもらえればと願う。いくら現地オペレーターがそういうアプローチをしようとしても、参加する人が、クジラたちのことを考えて、できればもう少しソフトなアプローチができないのかと提案できればいいのだけど。
もちろん、現地オペレーターたちは、そういう強引なアプローチをしないルール作りをしていくことが早急に求められている。
3日目、徐々にシロナガスクジラの個体数も減ってきた印象。見れるのは、数個体のシロナガスクジラと、当然水中のアプローチなどできそうもないかなり臆病なニタリクジラ。それに、定番のハシナガイルカの群れ。
何度かシロナガスクジラにアプローチしようと試みたが、初日や二日目のようには、近くことはできなかった。
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4日目は、1頭のシロナガスクジラに遭遇したのみ。マッコウクジラは、初日から今日まで全く姿をみることはなかった。
5日目。この日もシロナガスクジラ1頭と、シャイなニタリクジラのみで、他はなかなか見つからない。シロナガスクジラも、一度潜ると、その後を追跡するのが難しい個体だった。午後になってから、さらに外洋で、パイロットホエールの群れがいるという連絡を受けたので、そちらに向かうことにした。
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その海域に到着するとすでに何隻かの船がいて、パイロットホエールと泳いでいた。いたのは、コビレゴンドウ、カズハゴンドウ、ハンドウイルカ、サラワクイルカ、ハシナガイルカ。5種類の鯨類たちが入り乱れて泳いでいた。
とは言っても、海中でも目撃できたのは、コビレゴンドウのみ。
パイロットホエールなどの鯨類が移動してくるとき、マッコウクジラも同じタイミングで戻ってくることが多い。もしかしたら、どこかに戻ってきているかもしれないと、フィーディンググランドに向かってみたら、目の良いスリランカ人スキッパーが、「あ、テールが上がった、あ!また上がった、あ!また、4個、5個、6個!テールが6個上がった!」と興奮しながら叫んだ。
6頭一度にテールあげるなんて、シロナガスクジラではありえない。どう考えてもマッコウに違いない。そう思い、テールが上がったエリアに接近すると、後続の船から、自分たちのいる地点から少し戻った場所で、5頭のマッコウクジラがいると無線連絡が入った。やはりマッコウクジラも戻ってきていた。
すでに時間も遅く、僕らの2隻の船以外は見当たらず、マッコウクジラとのんびり泳ぐことができた。
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week1最終日の6日目、べた凪ですぐにシロナガスクジラ2頭を発見。何度かアプローチして一度だけ水中で見ることができたが、あとはなかなか難しく、マッコウクジラを探すことに。
昨日見たエリアより、かなり北西のエリアで、すでに何隻もの船に囲まれているマッコウクジラの群れを発見した。マッコウクジラの数は7〜8頭。船の数は10隻ほど。
一度マッコウが浮上すると、獲物を見つけたシャチのごとく、一斉に船がそのポイントに向かい、360度マッコウクジラたちを取り囲んでしまう。こんな光景、去年は見なかった。そして、360度からゲストが海に飛び込み、マッコウクジラと人と、船が入り乱れる。マッコウクジラはその中で、深海から浮上してきたばかりで、潜ることもできず、右往左往している。
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これでは、人も、いつ船に轢かれるかというような状況で、危険だし、クジラたちも、十分な呼吸ができないまま、潜行しなくてはいけないために、餌場となる水深1000mまで潜るだけの、呼吸がなかなかできない状況に追いやられているのではと感じた。
「なんかこれでいいのかな〜」と思いながらも、自分たちもその中に加わってしまっている状況に、見れたことを素直に喜べない、なんとも言えない複雑な気分になった。もし、week1のゲストが最終日でなかったら、海に入らない選択もしていたかもしれない。
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最終日は、最初に書いたことを、強く考えさせられた1日だった。
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