INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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Photographers Diary

1枚の写真を振り返る:安室奈美恵の結婚会見

2006.11.20 / Author.


新聞社時代には、潜水取材班として、潜水取材を行うだけでなく、報道、スポーツ、芸能など様々ジャンルに渡って、取材を行っていた。

若い頃は、事件現場や紛争地などといった、報道最前線へ飛び出していく血気盛んな取材が好きだった。そういうものを報道することに使命感みたいなのを感じていたのもあるが、まあ、半分は「報道」という世界に洗脳されていたのだろうとも思う。
逆に一番嫌いだった取材は、芸能。特に浮気や離婚報道とかで、芸能人を取材するのは本当に嫌だった。「何で人の離婚や浮気でいちいちこんなに大騒ぎしなければいけないのか、ばからしい」。社会性のある、もっと硬派な事件報道なら率先して行く気になるのだが、出社した直後にデスクから、何も言わずに「越智、これ行ってくれ」と取材依頼書を手渡され、中身を見て芸能関係だと、もうその日1日が憂鬱でしょうがなかった。
そんな芸能取材の中でも、まあ、行ってもいいな~と思えたのは、結婚会見取材。まあ、それもはじめの頃はすごく嫌だったけど、行きなれてくると、その場ではとても幸せそうにしている人の表情を撮影するのは、決して気分の悪いものではなかった。
中でも記憶に一番残っているのは、1997年10月24日の「安室奈美恵とサム」の結婚会見。個人的な印象だけど、あれほど現場にいた報道陣を幸せに感じさせてくれた会見も珍しいのではないだろうか。会見の場に立つ二人には、嫌味が微塵も感じられず、本当に祝福してあげたいと思ったのは僕だけでは無かったと思う。まだ20歳、当時超売れっ子絶頂期のアイドル歌手が、妊娠3ヶ月のできちゃった結婚会見。それはもうビッグニュースで、テレビ、新聞などが大きく取り上げた。
会見場になったエイベックス本社には、報道陣250人が駆けつけた。これくらいのビッグニュースになると、カメラマンも1社から1名とかではなくて、複数名が現場に駆けつける。僕が所属していた社からは、自分を含めて4人のカメラマンが向かった。小さな会見場に250人も報道関係者が入るから、「あっちのアングルが良さそうだから、アッチ行こう」って、そう簡単に移動できない。だから、その現場のキャップの指示に従って、それぞれが、配置について、シャッターチャンスを狙う。
新聞社在籍当時から、自分の興味を覚えたものしか撮影しないと良く言われ(しかられ)ていた。このときも、結婚会見であるから、ほとんどのカメラマンが安室奈美恵とサムの2ショット狙いで撮影していた。僕も当然そういう写真を求められる位置にいたのだが、2ショットはほとんど撮影しないで、安室奈美恵の幸せそうな表情ばかりを300mmの望遠レンズで狙ってた。別にアイドル好きのおっかけカメラ小僧の素質があったわけではない。
当時としてはまだ珍しい、芸能人のできちゃった結婚会見にもかかわらず、本当に幸せそうな表情を見せていた彼女。お嫁さんになる幸せだけでなく、母親になる幸せを心底かみ締めているその表情を撮影してみたいと思ったからだ。横に並んでいた、別の社のカメラマンからは(こんなに近いのに、そんな長いレンズで何撮ってんだ)みたいな顔でこっちを見られたりもしていた。(別に紙面に使われなくてもいいよ)と思いながらも、紙面に使用する写真をセレクトするデスクや編集局長に「これだ!」と思わせるような瞬間を撮ってやろうと思いながらシャッターを切っていた。
取材から戻ってきて、4人で撮影した大量のネガフィルムが並ぶ中で、僕は写真をセレクトするデスクに、「これ使ってください!」ともなんとも言わなかった。ただ、デスクがどれを選ぶかを見守っていた。数あるカットの中、しかもネガフィルムというセレクトの難しい状態でありながら、ルーペでネガを流し見しながら、「今日のトップはこれだよ、これ!これしかない」と言ってパンチを入れた、当時のデスクが誰だったかを、今でも僕は忘れていない。

その日の新聞各社の記事には、当然のように2ショットの写真が大きく紙面を飾っていた。しかし、僕の所属していた新聞社だけが安室奈美恵の幸せそうな表情のアップが1面トップにでかでかと使われた。テレビのワイドショー番組でも、2ショットよりも、その写真を大きく取り上げて報道をしていた。社内でも、そのことが評価され、賞をもらった。
報道といものは、その場の状況をいかに的確に、わかりやすく冷静に伝えるかが重要だけど、本当に人を動かす1枚の写真というのは、そのレベルの感覚で撮影していては撮れないと僕は思う。人から「何撮ってるの?」と思われるかもしれないけど、自分の強く感じた瞬間を撮影する。そういう気持ちが一番大切だと思う。
それにしても、できれば、離婚せずにずっと幸せでいて欲しかったな~。

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