INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

Photographer Takaji Ochi Official Site INTOTHEBLUE水中写真家 越智隆治

Official SNS
Facebook
Twitter
Instagrum

Blog

Photographers Diary

ヤップ島にはまった人々

2007.05.09 / Author.

_MG_3863.jpg
ヤップ。この島には、何か不思議なパワーを感じる。訪れるたびに、日本人や他のミクロネシアの島々でさえも、もう感じなくなってしまった、「何か」を強く感じることができる。こんな事、あまり人前で口にすると、「いい年して何言ってる」と言われそうだったから、言わずにいたけど、今回、彼女とこの島を訪れて、自分の感じた事、思った事をストレートに表現する姿を見て、自分もカミングアウトすることにした。

 「絶対宇宙人がいるよ、ここ!」。「うん、いるいる、きっといるよ」。迷路のようなマングローブをボートで走り抜けながら、彼女は船首に座り、大きく両手を広げ、嬉しそうに空を見上げた。 
 彼女は、常人とはちょっと違う感覚の持ち主。しかし、ヤップではそれが普通のことのように感じる。僕にもその感覚が覚醒してしまったのか。いやいや、実際にそう思わせる事がこの島では日常のように起こってしまうのだ。ヤップの中心地、コロニアにいたのでは、多分感じることはなかったかもしれない。街から離れた、人口30人のワチュラブ村にある、ビレッジビューリゾートに滞在していたからなのかもしれない。
 3月の頭に、「ヤップデイ」というヤップでは一年で一番大きな行事が行われる。ヤップデイの目玉は、それぞれの村々や、離島の人々が、カラフルな伝統的衣装を身につけて踊るヤップダンス。会場となった、戦時中の日本統治時代の学校跡地には、ヤップ中の人々が伝統的衣装を身につけて集まってくる。当然僕たちも、午前中のダイビングを済ませ、観光客気分で撮影に訪れた。
_MG_8068.jpg
 しかし、ヤップデイ前日、雲行きがおかしい。どうやら、熱帯低気圧が近くに発生しているらしく、天気が崩れていきそうな雰囲気だった。「明日は雨かな」と残念に思って空を見上げていたら、ライズダイビングセンターの大介君が、いつものようにビンロウジュの実を噛みながら、遠くを見るような目でこう言った。「パサンちゃんが、祈祷師が、明日晴れるようにホワイトマジックかけてるって言ってるから大丈夫っすよ」。「・・・・、え?ホワイトマジック?」。(奴も結構いっちゃってるよな・・・)。最初は適当に受け流していた。しかし、翌日は、嘘のような雲一つ無い快晴。にわかには信じられなかったが、ヤップデイは無事開催された。
 ただ、暑過ぎる!2日間に渡るヤップデイ、明日もこんな暑かったら洒落にならない。すると大介君が、また遠い目で「あ、パサンちゃんが、明日はもう少し雲多くして過ごしやすくするって」。「・・・・え?そうなの?」。
 翌日、空にはうす雲がかかり、過ごしやすい天候になった。僕はパサンちゃんと呼ばれるヤップ人に直接聞いた。「これって本当なの?」。「ホワイトマジックを行っている間、祈祷師たちは、水を飲んではいけないんだよ。水を飲んだら、雨が降る。去年もそうだったんだよ。最後の行事が終わった後に、祈祷師たちが一気に水を飲んだから、終了と同時に土砂降りになった」。「へ~」。
 「そろそろ皆引き上げてるだろ。今年もホワイトマジックで天気を良くしてるから、もうすぐ祈祷師たちが水を飲んで、雨が降るの知ってるから、早く帰ろうとしてるんだよ」。彼がそう言い終わるか終わらないかの内に、雨が降り始め、土砂降りへと変わった。パサンちゃんの手にも、飲みかけのミネラルウォーターのペットボトルが・・・。
 パサンちゃんとは、彼女が「神」と崇拝する、ヤップ人の祈祷師の一人。ちょっと長くなってしまったけど、この話は本当の話。僕は嬉しくなった。まるで物語の中のような出来事が、ヤップでは、そのまま現実に起こっている。そして、ここの人たちは、それを当たり前のように受け入れている。
 しかし、困ったことに、その時期「マンタの交尾が見れる」というので、取材に訪れたのに、このヤップデイを境にまったく見れなくなってしまった。「ダイバーが多すぎてマンタが嫌がっている」とか。「サイパン近くの海底火山が噴火したらしいから、そのせいかもしれない」とか憶測で色々言われていたけど、僕は「ホワイトマジックの影響でマンタがいなくなったんじゃないか。ダイビングじゃなくて、ヤップデイを見に来いってことなんじゃないか」という説に賛成することにした。撮影的には困ったけど、個人的な経験としては、とても「おいしい」状況だったとだけ伝えておこう。
_MG_3128.jpg
 彼女もそんな状況を楽しんでいた。何が起こってもおかしくない島でのダイビング。マンタが出ても出なくても、海中での彼女はいついもワクワクしたように目を輝かせていた。マンタが出ないミルチャネルは、まるで深い霧に包まれた雲海を、あても無く漂っているみたい。それが冒険チックでもあり、目的を果たせなかった探検隊みたいでもあり、そんな状況に立たされた僕らを客観的に眺めながら、皆が、意味も無く「おいしい」と感じていた。
 陸でもそうだ。彼女がヤップ滞在中の短い間に、創作意欲を掻きたてられて描いた、ヤップをイメージした絵画。「これ、ジャングルの中で撮影したらいいんじゃない」。何気なく提案した僕の案が受け入れられ、大きなキャンバスを持って、スタッフたちとジャングルの奥深く分け入って、撮影をした。皆、汗だくになり、蚊に刺されながら、こんなことをしている。廃墟となったストーンパスは、ジャングルに同化して、不思議な空間を作り出している。そこでは、ヤップ独特のジャングルのオーラを感じていた。
_MG_8356.jpg
 彼女は、青い海をバックに撮影されるよりも、苔むしたジャングルの中の奥深い湿った空気の中での撮影を好んだ。僕は、今までのモデルとは違う感覚の彼女に影響され、「美しく撮ろう」という思いから、「ありのままに撮ろう」という思いに変わっていった。嫌、彼女がそうさせていると言うよりは、ヤップという島が、彼女に、そして僕に「ありのままでいいんだよ。ありのままに表現すればいいんだよ」と語りかけていたのかもしれない。
 陸も、海も、何かの知識を詰め込むのではなく、何かを感じ、感動すること。その大切さを教えてくれる島。ヤップってそんなところだ。彼女は、ヤップ島で不思議なパワーを身体全身に詰め込んで、僕より一足先に、日本へと帰っていった。最終日の夜、別れの挨拶をしに、夜景を撮るために、カメラを空に向け、ビーチで一人座り込んでいる僕に向かって、「帰りたくないオーラ」を発散していた彼女が印象的だった。そして、残された僕は、ますますこの島の深みへとはまっていったのだった。
[彼女」のブログ 
https://yaplog.jp/nikkisdiary/
ヤップ取材の記事が掲載されているダイビングワールドは明日発売されます。
WEB-LUEでのヤップ特集は6月の夏号に掲載予定です。

RecentEntry

  • カテゴリーなし