INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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Photographers Diary

ブルームからダーウィンへ、ヘリ墜落、救助に向かう

2008.05.19 / Author.

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2日目、キャンプ地に行く前に立ち寄ったImintjiロードハウスには、観光用の真新しいヘリがあった。これに乗って、広大なキンバリーを空から撮影するのも悪くないな。そんな時間はあるかなと思いながら、キャンプ地(Silent Grove)へと続く、わき道へと向かった。

翌朝、Bell Gorge(ベルゴージ)を見学して、同じロードハウスへ。あのヘリが無かった。きっと観光客を乗せて、空を飛んでいるのだろう。
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僕は、狭い店内に入り、水を買おうと、他の旅行のメンバーと一緒にレジに並んでいた。すると、外を見ていたロードハウスのスタッフらしき男性が、「なんてこった!ヘリがスピンしてるぞ!墜落だ、墜落!」と言いながら駆け出していった。
僕もとっさに持っていたペットボトルを投げ出して、自分たちが乗ってきた4駆のバスに戻り、ショートズームの付いたカメラをタスキ掛けにして、墜落現場へと向かった。現場までは、スピニフェックスというトゲ状の草が沢山生えていて、短パンとクロックスを履いた足に突き刺さる。痛いし、ブッシュの中に毒蛇などがいる可能性もあったのだけど、とにかく現場までダッシュし続けた。
横倒しになったヘリの前には、頭は鼻から血を流して倒れていた乗客が3人。パイロットは、背中を強く打ったらしく、まだヘリの中から出られないでいた。現場にいたのは、ロードハウスのスタッフの他に、僕らツアーメンバーの男性が数人。
アボリジニのスタッフたちが運転するトラックも2台駆けつけてきた。僕らは、操縦席に倒れたままのパイロットを引き出す。「背中が痛い!やめてくれ!」と叫んで懇願する彼には悪いが、このままではヘリが引火して爆発する可能性もある。
とにかく引き出して、他の3人と一緒に、車の荷台に載せて、ロードハウスへと運ぶ。その間も、「車を動かさないでくれ!背中が痛い!」と叫ぶが、僕らのメンバーの一人がずっと彼の手を握り、「頑張れ!」と勇気付けていた。
全員をロードハウスに連れて行き、日陰に寝かしたり、水を飲ませたりすること約1時間。その間、ツアー参加者全員が、何かできることをやっていた。1時間を過ぎたころ、やっとこの区域にいる唯一の看護師が車で到着した。しかし、励ます以外、彼女もほとんど何もできない。パイロットは完全に背骨を骨折しているようだった。トラックの荷台から降りることもできない。迂闊に動かすこともできない。荷台に日陰を作り、水を含ませたタオルを額に乗せて、何度も返るくらいしかできない。
医者のいないこの僻地では、フライングドクターが未だに活躍している。ブルームからもう数時間したら、医者がヘリかセスナで飛んでくるというが、僕らはそれまでそこにいることはできなかった。ある程度落ち着いたので、僕らはツアーの行程もあるために、ケガ人を残して出発した。確かにその場にいても、結局医者が到着するまで何も特別なことはできないのだけど、救助はしたものの、僕はなんとなく無力感にとらわれていた。
車内にいた全員がそう思っていたのかどうかはわからないが、しばらくの間、車内には沈黙が続いていた。全員が無事に回復することを願っている。
カメラを持っていったものの、結局事故直後の写真を撮る気には慣れなかった。皆を救助し、車に乗せた後に、3カットだけ墜落したヘリを撮影しただけだった。

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