INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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Photographers Diary

オウム真理教教祖麻原彰晃逮捕、その日の話し2

2006.12.15 / Author.

疲労感を伴った深い眠りから覚めるとき、ほんの一瞬自分が今何をしているのかがわからなくなるときがある。ぼ~っとしながら、すでに明るくなっていた周囲を見回して、自分が車内にいることに気がついた。月夜にも関わらず横殴りの雨が吹き付ける、昨夜の非現実的な状況は、夢ではなかったわけだ。
時計を見る。「え、6時!もう強制捜査の入る時間じゃん!」慌てて跳ね起きた。なぜこの状況で僕だけ取り残されているのか。何で同僚たちは自分を起こしにきてくれなかったのか・・・。戸惑いと苛立ち、そして焦りを感じながら、カメラバックとカメラを引っつかんで慌てて車外に出た。

と、そこへ、自社の社旗を付けたハイヤー2台が走りこんできた。同僚を現場に配置につかせて戻ってきたハイヤーなのかと思ったのだが、目の前で停車した車内から、今は現場に付いていなければいけないはずの同僚たち全員が機材を持って慌しく飛び出してきた。一瞬目を疑った。もしかして、自分の確認した時計の時間が合ってなかったのかと思った。どちらにしても置いてけぼりになっていたわけではないと胸をなでおろした僕は、「ど、どうしたんですか?」と、飛び出してきた現場キャップに尋ねた。
「やっべえ、寝坊しちまったよ!」。「え~、全員がですか~?」。力が抜けた。そこには、まさにXデーのその瞬間のために派遣された社の精鋭部隊(?)が、全員雁首そろえていたのだ。
「いくぞ!いそげ!」理由を聞いている暇は無い。とにかく撮影配置につくべく、重いカメラ機材を持って、昨日の雨でぬかるんだ泥道を全員でダッシュした。現場に到着すると、すでに数百人に及ぶ機動隊装備をした警察官たちが、まさに第6サティアンに流れ込んでいくところだった。僕らは規律の取れたその集団を「すいません、すいません」と言ってかきわけながら、自分の配置先である、サティアン正面入り口前の報道陣の撮影エリアに息も絶え絶え転がり込んだ。
この日のために、報道関係者らが、サティアン周辺をチェックし、「ここからなら、建物から出てきた麻原彰晃を撮影可能だ」と思われる位置が数箇所あって、そのほとんどの場所に各社が場所取りをしていた。周囲を取り巻く報道陣の数は、はっきり覚えていないけど、1000人は下らなかったのではないだろうか。僕が配置についていた正面だけでも300人以上はいたように思う(ネットで調べたら、全体で400人という数字が出てきたが、これも公式なHPでは無いので定かではない。全ての関係者を含めれば多分1000人は超すと思われた。まあ、これも公式なHPじゃないのであしからず)。
要するに、僕が配置に付く最重要ポイントでもあるサティアン正面だけでなく、裏側や、側面など、とにかく、○経新聞の場所だけが、カメラも設置せず、全て空席。日本中、否世界中を震撼させた大事件のXデーを迎えようとする瞬間に、1社のカメラマン全員がまったく姿を見せていなかったわけだ。○経新聞といえば、警察関係とはかなり密接なつながりがあると言われている。右左で言えば、言論がかなり右寄りだし、警察関係者で購読してる人も多い(ちなみに、朝○、毎○は、どっちかと言えば左、○売、○経が右)。
当然のことながら、現場には「もしかして、実は麻原は、大々的な強制捜査の入るこの第6サティアンでなくて別の場所に潜んでいるという確実な情報を、警察関係者からリークされて、急遽こちらを放棄して、全員がそちらに向かったのではないか?」、という疑心暗鬼な噂まで流れ始めていた。
そこへ、機材を持ってあたふたと駆けつけたわけである。当然周囲からは白い目で見られると思っていた。僕が配置についた最重要ポイントには、自社から僕を含め、3人が配置につくことになっていた。僕と先輩二人。その3人が同じエリアに転がり込んだわけだから、目立たない訳がない。おまけにその3人というのが、どんな現場に行っても、いい加減なことばかりしていた、当時報道関係者の中でも“○経の3バカトリオ”と異名を持つくらいのメンバーだった(いい加減さんと腕の良し悪しは必ずしも比例していないと思うんだけど)。
周囲には冗談混じりに新たな疑惑が生まれていた。「お前ら3人をこの最重要ポイントに配置させるってこと自体おかしい」というのだ。「お・ま・い・ら、ダミーだろ・・」。精鋭部隊をリークされた現場に急遽向かわせて、「あまりに誰もいないと不審がられるから、お前らが第6サティアン行って、いつもの適当さで他社の目を適当に誤魔化しておけ」って指示されたのではないかと言うのだ。
ただ全員で寝坊しただけなのに、そこまで疑われてるとなれば「身に余る光栄」。こちらを覗き込んでくる他社のカメラマンに対して、「いやは~、そんなわけないじゃないですか~、ねえ○典さん(3バカの一人)」。望遠カメラを設置する手を休めることなく、僕は愛想笑いをしていた。○典さんも「がははは~」と笑いながらも、機動隊がサティアンに流れ混む雑感シーンを撮影し続けていた。カメラに隠れた彼の目は、笑っていなかった。
また小雨がぱらつき始めていた。
続く

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