今日もバラフエダイの産卵狙いで、早朝からペリリューコーナー先端へ。早朝と言っても、ボートが先端に到着するときには、まだ満月と星たちが、天空で輝いている。東の空が白み始めた午前6時過ぎ、まだ暗い海中へとエントリーしていく。
激流で有名なペリリューコーナーの先端に、こんな暗い時間帯に潜る行為自体、パラオのガイドでさえ、通常はあり得ない。それを、定番メニューとしてこなしてしまう、デイドリームペリリューステーションの海への探究心には、いつも感心させられる。
暗がりでありながら、見えもしないコーナーの先端(水深25m~30m)を2点のヤマだてで、いとも簡単にピンポイントで当ててしまうオペレーターも凄いけど、バラフエの大産卵にアタックをかけるブルシャークやカマストガリザメが深場から上がってきている、暗い海に一人で素潜りして、潮のチェックや産卵の様子を確認する、ガイドも凄い。
そのチェック時、すでに産卵が始まっていたらしく、海面に顔を出したガイドの遠藤さんから「すぐに潜ります!エントリーの体勢になってください!」と慌ただしく指示が飛ぶ。彼がボートに戻るなり、皆一斉にバックロールで海に飛び込む。
まだ海中は、真っ暗で、まともに撮影ができる明るさではない。それでも、カメラのISO感度を最高まで上げて、ダイバーを撮影しながら、どこまで撮影できそうかのチェックをする。
流れは昨日より、緩い。これなら、産卵シーンに接近できそうだ。しかし、先端には期待していた大産卵の群れも、それを狙うサメの姿も無かった。やはり昨日の激流で、ほとんど産卵を終えてしまったのか。一瞬気が抜けたが、もう一人のガイドの加藤君が、流れの上に向かって泳ぎ始めた。
それに従い、皆が着いていくと、ブルーウォーター、、、いや、ブルーウォーターじゃない、ダークブルーの暗がりに、うっすらと黒い塊が見え始めた。バラフエの群れだ!
バラフエの群れは、それ自体が一つの生き物のように、うねうねと移動しながら、後方で、激しい産卵を繰り返している。まるで煙を吐き出しながら、断末魔の悲鳴を上げて、サメたちの攻撃から逃れる黒い悪魔のようにも見える。
先頭を泳ぐ僕は、遠藤さんに「接近していいか」とアイコンタクトを送る。「行ってください!」そう言うかのように、彼は大きくうなづき、僕は群れに向き直り、さらに距離をつめる。下からは、補食のために、ブルシャークやカマストガリザメが、アタックを繰り返している。
この時点で、すでに群れの移動に追いつけないダイバーが出始める。後方に、後方に、僕以外のダイバーは遅れ始める。このまま、一人で追い続けるか、一瞬躊躇する。その目の前をブルシャークが悠然と姿を見せる。さらに追いかけようとダッシュするのだが、流れに逆らって激しく泳いでいたために、エアは50を切っていた。
これ以上の深追いはできない。そう思い、皆の方に引き返し、一緒に浮上を開始する。時間にして、ほんの10分程度の出来事だった。納得のいく写真が撮れたのかと言われると、自信を持って「イエス!」と答えられない後悔の念を引きづりつつ、水深5mで安全停止をする。しかし、今回、これが最後のチャンスだった。納得のいく写真なんて、たぶん、一生撮れないかもしれない。
でも、この難しい海をテーマに、撮影の機会を与えられている事だけでも、感謝しなければいけない。