8月5日、ホエールスイミング初日、2人乗りのボート2隻に分かれて海に出る。僕はオンゴと、トニーはノーファと組んで、クジラを探す。天気は良いのだが、多少風がある。オンゴの話では、「今日は多少風があるけど、明日、明後日はかなり良いコンディションになるよ」とのこと。
この日も、気温は高く、ウエットスーツを半分着て、上半身は何も着なくても過ごせるくらいの日差し。港を出発して、15分もしないうちに、何頭ものクジラのブローを発見する。「あそこでブリーチング、あっちにペア、あ、あそこは3頭かな・・」。目視できる限りのエリアのあちこちでクジラたちが活動していて、どれにターゲットを絞るか迷ってしまった。
結局3頭で一緒に行動しているクジラにターゲットを絞って追跡。しかし、なかなか止まってはくれない。無線でノーファが、僕らの12時方向方側から、4頭のクジラを追跡してこちらに向かっているという無線が入る。
「そのうち7頭一緒になって、遊んでくれれば面白いな」とオンゴは笑う。彼にとって、頭蓋骨を骨折してから、今日が初めて海に出る日だった。まだ、何かあると頭痛がすると聞いていたので、波のある場所でボートが跳ねるたびに、頭に痛みが来ないか心配した。
「頭は大丈夫?痛みは無い?」と聞くと、「クジラに集中してれば頭のことなんか忘れるから、思い出させるなよ。さあ、あのクジラたちをものにするぞ!」と笑顔を見せた。
僕は、「ごめん」と一言言った後は、彼の頭に関しては何も聞かないようにして、クジラたちの動きに集中した。
群れは、交わることなく、移動を続け、結局入水は諦めて、僕らは別のカップルをターゲットにして接近。彼らは、深く潜行しては、海中で停止して、潮の流れに乗って僕らのボートの近くに浮上する行動を繰り返していた。
その浮上のタイミングを狙ってエントリーして接近を試みる。何度かこれを繰り返し、写真はともかく、なんとかゲスト全員が水中でクジラに遭遇することができた。僕らのボートに乗船しているのは、今回トンガに初めて来た二人。
一人は、先日のバハマにも2週間参加してくれた、韓国人のチャンさん。彼は中央日報のカメラマンで、先日バハマで撮影した写真で韓国で写真展を開催し、韓国のTravelという雑誌で、なんと26ページものバハマのイルカ特集を掲載した。今回その雑誌を持ってきてくれたのだけど、その中で、僕たち家族のことも紹介してくれている。表紙のモデルは生田さん。
もう一人は、中村さん。バハマや御蔵島にもよく行っていて、泳ぎの上手な女性。しかし、今回初日のペアとの遭遇時、エントリーと同時に慌てていたのかフィンを海に落としてしまった。それでも、彼女はこの日、片フィンで最後まで泳ぎ、親子との感動的な遭遇を果たした。
ペアのクジラは海中で見れたものの、なかなか接近できない。諦めて、また別のクジラを探すが、その後はぱったりクジラが見当たらなくなった。他の船もこの日はほとんど見つかっていないと連絡が入っていた。
最後に透明度は悪いけど、過去に結構親子クジラを発見していたポイントをチェックしていると、ついに親子を発見。水面で休息していたので、接近して入水した。ペアのときとは違って、3人揃って、ゆっくり、ゆっくり近づく。だから、片フィンの中村さんも、十分に親子を見ることができた。
しかし、透明度が悪い。親子はしばらく移動をはじめ、その途中で子供が2度ほどブリーチングをしたかと思うと、急に移動するのをやめた。
オンゴがすかさず「今だ、入れ!」と言ってきたので、また静かに3人揃って入水。すると親子、特に子供がこちらに向かって接近してきた。まるで「わ~あそぼ~あそぼ~」みたいな感じで母親を乗り越えて、僕らに接近してくる子供を「こら、知らない人に勝手について行っちゃ駄目でしょ!」と引き戻そうとする母親。
一度連れ戻されるが、母親の目を盗んで、再度子供がこちらに向かって「わ~い、わ~い」って感じで接近してくるのを「も~、この子は!知らない人に着いていったら駄目って何度も言ってるでしょ!」とまたまた連れ戻されて、泳ぎ去った。
自分にも子供がいるからなんとなく、そんな風に想像してしまった。寝起きは不機嫌だけど、眠気が覚めた途端、急にまとわりついて「あそぼ~、だっこして~、肩車して~」という息子たちと、今日の子クジラがオーバーラップして、僕は海中で、笑いっぱなしだった。
あまりに向かってくるので、ゲストのチャンさんも、中村さんも、後退しながら親子クジラたちを見ている感じだった。
泳ぎ去って、ボートに戻ると、オンゴが、「今日はウォーミングアップだ。親子のクジラはこのままにしておいて、また明日、ここに来て泳ごう」ということで、そのことをゲストに説明して、この日は終了した。チャンさんも中村さんも初日にしては満足してくれたらしく、まだ親子クジラたちは目の前にいるのだけど、嬉しそうに同意してくれた。
港に戻ると、マーメイド(バー)には、もう一人のスキッパー、ニュージーランド人のJBが、やっとババウに戻ってきていた。それまでは、海外でエンジニアの仕事をしていたのだけど、僕とトニーのために、ここに戻ってきて、今年もスキッパーをしてくれることになっていた。オンゴもJBも、僕らと海に出るのを楽しみにしてくれていた(多分)。
オンゴがニュージーランドかオーストラリアで治療しなければいけないと言われたときに逃げ出したのは、「もしそんなところに行ってしまったら、いつ帰ってこれるかわからない。そうしたら、TAKAやTONYと海に出れなくなってしまうから」と言っていた。
トンガ以外ではまったく会うこともないし、メールで連絡を取り合うこともしない。それでも、一緒になにかやるときに、お互いが、会うことを楽しみにし、久しぶりの再開を心から素直に喜ぶ 。そういう男っぽい関係が、自分にはとても小気味良い。