INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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トンガ ホエールスイム

6週目、2日目・作り話のような体験

2008.09.14 / Author.

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この日、信じられない体験をした。僕たち2隻(ノーファと僕、ピーターとトニー)が、数頭のヒートラン(メイティングポッド)と泳いでいるときに、別の2隻の船のスキッパーから連絡が入った。

その内容は、「リーフの中で一緒に泳いでいた親子の子クジラの方が取り残されて、母親の姿が見当たらなくなってしまった。もしかしたら、そちらが一緒に泳いでいる群れの中にこの子の母親がいるかもしれない。できれば、その群れが遠くへ行かないように引き止めてもらいたい」ということだった。
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(え?親子がはぐれて、その母親がこの群れの中にいる?本当かな~?)と最初は疑いながらも、「どうして母親が子供置いて、別のオスと一緒にいなくなってしまったのだろう」と気になっていた。
群れを遠くに行かないように引き止めるといっても、相手は巨大なクジラたちだ。そう簡単に方向を変えさせたり、引き止めたりすることなんてできるわけがない。それに、このクジラたちの中に、母親がいるかどうかも定かではない。
ただ、群れは子供が残されたリーフからは明らかに遠ざかって行くように移動しているので、泳ぐためにエントリーすることは諦めて、群れの前に回りこみ、クジラの進行方向で船のスピードを出して横切って、なんとか方向を変えさせたり、泳ぐスピードを緩めさせたりしていた。
子クジラが取り残されていたリーフから、群れのいる場所までは、おそらく2キロは離れていたと思う。
「子クジラは、一緒に泳いでいた船にくっついていて、離れない状態だそうなので、誘導して、この群れのところまで子クジラを連れてくる」と無線が入った。(そんな、子クジラを船で誘導して、こっちに連れてくるなんてできるのか?)と半信半疑に聞いていたのだけど、とにかくこちらは2隻で群れを遠ざけないようにしていた。近くでウォッチングをしていた、もう1隻の船にも無線でその状況を知らせて、協力してもらい、3隻でクジラの行く手も遮って、群れを遠ざけないように努力していた。
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そのうち、はぐれた親子と泳いでいた船の1隻が、こちらに到着した。なんとか努力していたけど、それでもリーフからはさらに遠ざかっていた。その船のスキッパーが、背びれを確認して「間違いなく母親だ!」と大声で叫んだ。
半信半疑だった、皆も俄然やる気ができて来た。特に若いピーターは、ここぞとばかりに張り切って、クジラたちが浮上すると前に回りこみ、進行方向を回避させるべく、激しく船を旋回させていた。
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子クジラがついているというもう一隻の船が、少しずつ、少しずつ、群れの方に近づいてきていた。無線では確認しているけど、やはり自分の目で確かめないと、確実には信じられなかった。しかし、かなり接近してきたところで、船の真横で子クジラがブリーチングをはじめた。まるでいつもお母さんの横や鼻先でやんちゃに飛び跳ねるのと同じように。何度も飛び跳ねた。
「信じられない。こんな話、誰も信じてもらえそうにないよ」僕は感動しながらも、笑いながら皆にそんなことを言っていた。皆もうなずきながら、元気に飛び跳ねる子クジラが無事に母親の元に戻れるように願っていた。
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徐々に、徐々に母親と子クジラの距離は縮まっていく。子クジラがついている船に乗っているゲストは、「はやく向こうに行け!あっちだよ!」と下を見下ろしながら、子クジラに叫んでいる。
船と子クジラの目の前に群れが浮上し、また潜行した。船からは、「子クジラの姿が見えなくなった!」とゲストたちが叫ぶ声が聞こえてくる。
次の瞬間、ちょっと離れた場所に浮上してきた群れの中には、はっきりと母親と一緒になった子クジラの姿があった。それを確認すると、すべての船から歓声があがり、拍手が沸沸き起こった。
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僕らは、この親子たちをしばらくそっとしておこうと、すべての船がその場から離れた。まあ、そっとしておこうと言っても、母親を狙う数頭のオスはそのまま一緒についていってるのだけど。
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以前にも、母親が生まれたばかりの子クジラをほったらかしにして、別のオスとどこかへ消えてしまったことがあった。そのときは8人乗りのホエールソングに、ベビーシッターみたいにずっとつきっきりだった。
そのときは、1時間くらいしたら母親が戻ってきたそうだが、その間、子クジラはホエールソングの船底で、おっぱいを捜すような仕草もしていたようだった。
後日トニーがハワイのクジラを研究している学者にこのことを質問したところ、子クジラを置いて、母親が別のオスとどこかへ行ってしまうことは決して珍しくないそうだ。シーズンの初めに、オーストラリアのある海域で、やはり子クジラがリーフに取り残されて、母親が戻って来なかったために、その子クジラを殺さざる終えなかったというニュースがあった。
自然の状態で、子育てを放棄、あるいは、オスの圧力で放棄せざるおえない状況に追いやられることは、あり得ないことではないのだという。イルカの社会でも、頻繁に起こる可能性があるとある雑誌に書いてあったことを思い出した。
そう考えると、まだエスコートがついたままの母親に、子クジラを戻したところで、また母親は子クジラを放棄せざるおえない状況になったかもしれない。
全ての船のゲストが、あの子クジラの健気な姿に感動していた。どうか、もうあの親子が再び離れ離れにならず、元気に成長してくれることを願っている。

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