INTOTHEBLUE 水中写真家  越智隆治

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トンガ ホエールスイム

2004年トンガでのクジラ水中撮影2:テールスラッピング

2004.08.16 / Author.


毛塚さんが体調不良のため、ボートに乗れず、スキッパーのオンゴと僕二人で出かけた。午前中、南東のリーフで5~6頭くらいのメイティングポッド(メイティングポッドA)(交尾のため、1頭のメスを数頭のオスが追いかけている状態)を発見した。

1頭のメスを5頭程のオスが追いかけていた。激しくブローしながら移動していく。さすがにこの数で移動する大人クジラの群れは迫力ものだ。オンゴが「群れの前に落とすから、入れ」と言う。「え、マジで!?」内心躊躇したものの、身体は勝手にウエットスーツを着始めていた。「用意はいいか?」と言いながら、オンゴはメスとオスの間にボートを滑り込ませた。「今だ!」、「えっ、こんなところで?真正面から向かってくるよ。こんな時に限ってなんで一人なんだ。」病気になって苦しんでいる毛塚さんを恨めしく思いながらも、カメラを持った身体を、命じられるままにボートから海中へと勢い良く滑り込ませた。入る瞬間に、何頭かのオスの背中が迫ってくるのが見えて、ありありと目に焼き付いた。「マジ、真正面だよ」自分の鼓動を感じながらも、クジラに向かって半ばヤケ気味に泳ぎ始めていた。
透明度は最悪、10m無いのではないだろうか。その事が余計に緊張感を増幅させる。「どこだ、どこにいるんだ」水面に顔を出し、向かってくるであろうはずの方向や、足元の海中を慌てて何度も見回す。眼下に数頭のクジラが潜行していくのが見えた。「無理かも」と思いながらも、少し潜って、カメラを構えシャッターを押してみた。が、ピンが合わないのかシャッターが切れない。しょうがない。この透明度と距離ではどちらにしても使い物にならない。結局入水はそれ一度で諦めて、ボート上から狙う事にした。しかし、延々と並走を続けているだけなので、適当に切り上げて別のクジラを探す事にした。
Ovaka島の南側の浅いリーフでオンゴが子クジラを見つけた。1頭で水面に浮いて遊んでいた。様子を伺っていると、2頭の大人クジラが同時に浮上してきた。母親とエスコート(親子C`+エスコート、No10,11,12)だという。しばらくすると、また2頭は潜ってしまい、子供だけが水面でプカプカと浮いている。
「ボートを近付けるから、潜らずに水面をゆっくり近付いていけ」とオンゴに言われ、ボートで近付けるギリギリまで接近してもらい静かに入水。ゆっくり近付いていくと、海中に降り注ぐ太陽の斜光の下に、母親とエスコートがじっと動かずにいるのが見えた。その上で子クジラは楽しそうに遊んでいる。
僕が近付くと、子クジラは正面きって接近してきた。ファインダーを覗いていて、「このままだとぶつかる!」と思った瞬間、子クジラは踵を返し、向かって右側にそれて、彼の右半身がフレームいっぱいになった。SEA&SEA NX-100の17~35mmの17mm側でテールまでいっぱいいっぱいだった。「子クジラにこんなに近寄れるなんて」と思いながら、しばらく夢中になって子クジラと泳いでいて、はっと我に返り、下にいる母親とエスコートの事を思い出した。下を見ると、2頭がゆっくりと浮上して来ていた。慌てて2頭を避けるように子クジラから離れた。
エスコートが僕と親子の間に割って入る。緊張する。そのまま泳ぎ去ったと思ったら、またすぐ近くの海中で停止しているとオンゴが教えてくれた。一度ボートに戻って、同じ要領で何度か入水してみた。母子、母子とエスコート、子クジラだけと、様々なバリエーションの撮影ができた。この母親はエスコートよりはるかに大きかった。昨日の母親より全然大きい気がする。オンゴが、子供は生後2日くらいと言っていた。実際に生まれた場面を見たわけでは無いので、本当かどうかわからないが、18年ものクジラガイド経験のある彼の言う事だから、いい加減な目測でもないだろう。
僕たちがこの親子に遭遇して、3時間以上たってから、3頭がそのリーフから移動を始めた。子クジラは母親の側で何度も何度もブリーチングを繰り返した。30回以上はしていただろうか。母親もテールスラッピングやペクトルスラッピングをボートの目の前で何回も繰り返していた。子クジラもそれを真似するように後に続いた。見ていて微笑ましかった。
「母親は怒っているのかな?」とオンゴに訪ねると、「いや、子どもに教えているんだよ、こんなふうにやるんだよって」と笑いながら答えた。今までイルカやクジラがテールスラップとかして水面をたたくのは、「邪魔するな」という合図だと認識していたが、まあこんな考え方もあるんだな。
しばらく一緒に並走して、Ava Pulepuekai海峡の中程まで来た。ホエールウォッチングの許可を持っていない他のヨットが何隻かついてきていた。3頭の姿が見えなくなったと同時くらいに、遠くで大人のクジラがブリーチングを始めたので、そちらに向かう。
しかし、接近するとブリーチングを止めて潜ってしまった。オンゴは「交尾を終えたオスだろう」と言っていた。「なんでわかるの?」と聞くと、交尾を終えたオスは、俺は今セックスしたぞ!やったぜ!って皆に自慢するためにブリーチングするんだ」と言っていた。本当にそうなのかどうかはわからないが、面白い発想だし、なるほどと納得してしまう。それにしてもフルークは速い。メリンダだったら、この移動に1時間くらいかかりそうな距離を、ほんの数分で移動してしまう。
結局この日はこれで終了。しかし、2日連続で様々なバリエーションが撮れて本当に今回だけでもクジラの写真集が作れそうな勢いだ。それにこのままではフィルムが足りなくなってしまいそうで心配だ。正直言って、毛塚さんと1週間で帰っても良いくらいだ。

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